物を売る仕事をしている
物を売る仕事をしてる。
学生時代やってもやっても就活が上手くいかなかった。
自分のやりたいことがはっきりわかっていなかった。
自分の気持ちとのぎりぎりのつながりを探り、作りたいものがある人のサポートができると考え手芸屋さんで働いた。
物を作りたい人のわからないことや理想を共有して、一緒に実現していくことはやりがいがあってすごく楽しかった。
お店に頻繁に来る人の中でも物作りで自己表現したい人はいて、そういった人とのやりとりは面白くありつつも何がしたいのかよく解らず面倒だった。
自分の学生時代も他人からはこんな風に見えていたのだと思う。
そりゃ就職きまらんがなと反省することができた。
やみくもにやっていく中で、店頭で困っている人と話すことに一番のやりがいを感じるようになった。
しかし、人手不足の手芸屋さんはやることが多く社員は雑務に追われた。
仕事をまわすことにいっぱいいっぱいで、自分がゆっくりとお客様と会話する時間はあまりとれなかった。
様々なことを考えて仕事を辞めるとき、このお店でやれなかった「接客」をしっかりできる業務につきたいと思った。
人手が足りてないと古い友人に紹介された今の会社に入った。
素材を扱っていたから知識はあるだろう、という点と店頭業務経験を踏まえての縁故採用だったと思う。
しかし、販売する商品の値段は以前と桁違い。
店頭にちまちまと並べた商品をお客が勝手に選んでレジに持ってきてくれるのではなく、こちらからどんどん声を掛けて商品をおすすめしていく。
全くやったことがない。私はかなりの期待外れ販売員だったと思う。
最初はなんて声をかけていいかわからなくて、やみくもに商品のことをべらべらはなしていた。
若干緊張して声を掛けてくる販売員なんて、気持ちが悪い。
話したら売れる魔法の言葉みたいなのを探してた。
自分自身もお店で販売員に声を掛けられるのが嫌いだし、こんな金額の大きな商品一回目の来店で購入するわけがないと本気で思う。
矛盾と緊張でずるずるになり、20代後半の情緒不安定販売員はどんどん深見にはまっていった。
わかりやすい転機があったわけではない。
自分がやられたら嫌なことはしない。
良いことも悪いこともしっかり説明し、その上でお客様に商品を選んでほしい。
それを自分との約束にして、声を掛け続けた。
そうすると、困っている人は打ち明けてくれた。
悩みや疑問について、しっかりと答える。
その答えの中に、少しでも私が嫌でないのであれは私のおすすめを試してみませんか?という提案をしてみる。
こんなことをぐるぐるくりかえして、ある程度面の皮の厚い30代販売員が出来上がっていた。
私はたぶんこの販売員さんなら嫌いじゃないと思う。
最近、入社したころの私を遠くから見ていた人と仲良くなり昔の印象を聞いてみたら
すごい神経質そうにみえていたと教えてもらえた。
今はよく笑っているし楽しい人にみえるとも言ってくれた。
あと1日の出勤で今の会社が終わり、新しい職場へうつる。
退職が決まってから休みが増えて仕事から離れ、よりぼんやりとした販売員になってしまったけど欲しいものを探している人と話すのは楽しい。
あと、若いおにいちゃんと会話することも減るんだろうなーと思うと寂しい。
色々寂しくて、それを誤魔化すために適当なことばかりしゃべっている。
最後の日は誤魔化しきれないんだろうなーとも思うけど、入社してきたばかりの自分と比べると寂しさなんて可愛らしいもので、ずいぶん果報者だと思う。
動かした身体の分だけ、新しい場所へ根を下ろせるように生きていくぜ。