夢みたい

今週のお題「卒業」

 

 

 

1週間前、電話で別れ話をした。

最後に会えたのは2週間前に、2時間。

隙間と隙間で振り絞って作ってくれた時間だろうけと、その隙間を作っている大きな場所に居たかった。一緒に帰りたかった。

別れ際、「そんな顔しないで」と言われた。自分の表情がどんなのかわからなかったから「わからないよ」と答えた。

 

電話で、あの時の顔を見て「こんな顔をされるなら、別れないと」と思ったと言われた。

今まで見たことない顔をしてた、と言われた。

そりゃそうだ、あんた私のことあんまり知らないじゃない。

 

 

 

 

初めてあったピザ屋さん。そのあと一緒にライブに行って、あんたは10年ぶりのライブだって嬉しそうだった。急に転勤が決まったけどそのままにするのは惜しくて頑張ろうって言って、

でもその後会うたびに私のことが小さくなっていっているのがわかった。

このまま小さくなっていくんだろうな、と思っておおきな声を出してみたり、私もあんたを小さくしてみたりした。

 

本当に小さくなってしまったんだと思う。だって今私は不思議と寂しくない。

大きかった気がしただけかもしれないし、本当は最初から小さかったのかもしれない。

でもちゃぶ台で朝から豚汁すすったり、料理好きならテーブルあった方がいいよって買ってくれたテーブルで鍋をつついて順番に好きな曲流しあったあの時は、ずっと前からの友達みたいだったし、家族みたいだった。

きっと、お互いにこの何年かしたかったことができた相手だった。夢みたいだった。

私が私で勝手にへばり付けていた幽霊みたいな恋愛を拭ってくれた。

 

 

 

彼と一緒に行ったライブに、それから年を越して前から忘れられない男が来ていた。

私はそんな気がしていたが、それでもそのライブに行きたいという彼の誘いにのった。

そのライブの前日は、本当は彼よりもその男がどんな女と来るかが気になって仕方なかった。

 

ぴかぴかに腫れた土曜日、ライブがはじまって数時間後、会場の外でその男と知らない女が揃えたような同じ色の服を着て、一緒に嬉しそうに並んでいるのが見えた。

彼の横で、笑いそうになって、必死でこらて、こちらもキラキラに並んでビールを飲んで過ごした。

あの日、確実に彼がひとつの呪いを解いてくれた。

そして、その呪いは彼に会えないとしても、もう私のものではない。

 

 

これだけ寂しくないのは、自分がどんどん鈍くなっているからだろうと思う。

それでも恋もすぎて執着だけになっていた恋から引っこぬいてくれて、

「本当はもう1週間前に別れようって言おうと思っていたけど、声を聞いていると辛くて無理だった」と言う程度には私を手放したくなかった彼に本当は感謝もしている。

そんなことは絶対言わないし、連絡先を消した今は言えない。

 

ばーか。後悔しやがれ。

楽しかった。夢みたいだった。